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「もう、決めたことやから。もちろん、怖いし不安やで。あたしなんかが、ちゃんとシングルマザーやれんのかなって。ひとりで子育てできるんかなって。でもな、あたしには、あやがおるもん。育児のプロやもん。あやがいてくれたら百人力や」
美春は、ふふっと微笑みながらわたしを見る。
「いや、わたしは保育のプロでは一応あるけど、子育てをしたことがある訳じゃないからな!そこはマジで別やから!出産も授乳もしたことないし、夜泣きとかも経験ないねんから!昼間の保育と、ガチの育児はまったく別もんやねんから!そら、もちろん美春の赤ちゃんやったら本気でなんでも手伝うけど、百人力とか言われたら自信ないで?」
わたしが早口でまくしたてると、美春はまた、へらへらと笑う。
「わかってるってば。あたし、あやのそういう真面目なとこ、大好きやで。ほんま、あやが男やったら結婚したいくらいや」
小悪魔的な上目遣いで美春が言う。
美春が決めたことなら、応援したい気持ちもある。だけど、健介の気持ちはどうなるのだろうか。
わたしから見る限り、健介は果てしなく美春にベタ惚れだ。だけど、ふたりにしかわからない、ふたりの関係があるのだろう。
「健介には、なんて言うつもりなん。別れるとか、いきなり言われたら健介かて黙ってないと思うで。妊娠だって、バレるんは時間の問題やで?」
「うん。わかってる。だからお願い。真吾くんにはこのこと、絶対黙ってて欲しい。健介と別れたら、あとは適当にそのあと付き合った違う男との子ども出来たってことにするから」
美春は大真面目な顔でわたしを見て、そう言った。
こんな真剣な顔で何かを訴える美春を見たのは、健介に惚れたと告白してきたあの日以来かもしれない。
これが美春流の愛なのだとしたら、わたしには、到底辿り着けない。
「わかった。真吾には黙ってる。せやけど、わたしは健介にちゃんとほんまのこと、話したほうがええと思ってるからな」
「うん。あやは、そう言うやろうと思ってた」
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