通天閣に登ったら

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◇ 白黒の粗い画像の中で、小さな雪だるまみたいなものが動いている。 顔も表情ももちろんない、本当にただの雪だるまのシルエットが、ちらちらと画面の中を動き回っている。 美春の手の中で、スマホの画面の中で不思議なダンスをしているその雪だるま。 美春のお腹に宿ったばかりの、美春の赤ちゃん。 「親バカっていわれるってわかってんねんけど、もうすでにめちゃくちゃ可愛いと思えへん?」 美春はわたしに、スマホで撮影してきた動画を何度も再生して見せながら、何度も同じことを言っている。 「まだ顔もわからんやん。男か女かもわからんし」 わたしがそう笑うと、美春は真面目な顔で言った。 「いや、あたしにはもう顔が見えてんねん。とんでもない美少女やで、母親のあたしに似て」 「どこが顔なん。てか、なんでもう女って決めつけてんの」 「可愛いねんもん。あたしには顔、見えてる。あたしが見えてるんやから、あやにも見えるかと思ってんけどなぁ」 がっかりしたようにつぶやく美春。 顔は、たしかにわたしには見えないけれど、美春の赤ちゃんが本当にこの細いお腹の中にいるのだと思うと、幼なじみの腹さえ可愛いく、いとおしく見えてくるから不思議だ。 「見えるか!!でも、まあ、可愛いよな。赤ちゃん。新生児めちゃくちゃ可愛いで。3ヶ月の産休明けすぐの赤ちゃんとか、たまに0歳児クラスでみるねんけど、ほんっまに小さいしほんっまに可愛いもん」 「そっか、あやは新生児の世話もできるんやな。あたし、ほんま親友が保育士で良かったわ」 「完全にわたしに赤ちゃんの世話させる気でおるやん」 「当たり前やん!!あやがおるから、あたしはこの子、産もうって思えたんやもん」 「当たり前って、わたし仕事終わって帰ってきたらまた仕事するみたいになるやん……」 「スーパー仕事人やな、あや!!」 美春はきゃはは、と嬉しそうに笑っている。 だけど、わたしには美春がわざと、大袈裟に楽しそうにしている理由も解っている。 美春はまだ、健介に別れを切り出せていないのだ。
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