通天閣が見下ろす街で

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◇ 「あんた…まさか…」 思わず顔が引きつった。まさか、嘘やろ? 「やっと思い出したか。大迫あや」 鋭い視線がわたしを捕まえた。低く冷たい声でフルネームを呼び捨てにされ、返事をすることもままならない。まるで蛇に睨まれたカエルだ。 恐る恐る蛇、目の前の男を観察してもう一度確かめる。 どこからどう見ても、鍛え上げられたワイルド系イケメン。わたしの記憶の中の人物とは似ても似つかない。 わたしの平和な日常が、ガタガタと音を立てて崩れ落ちていく気がした。 こんなことなら、ビールに釣られて出てくるんじゃなかった。 わたしはカエルなんかじゃない、お姫様になりたかったのに。
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