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「お前、俺になんか隠してることあるやろ。しかもめちゃくちゃ大事なこと」
デート当日、久しぶりに会ってものの数分。
まだ映画館にも辿り着いていない信号待ちの車の中で、真吾は言った。
バレるにしても、あまりに早過ぎる。
まだなんの粗相もしていないはずだ。おかしい、何か真吾は違う話をしているに違いない。
そう必死で自分に言い聞かせ、自分史上最高のしれっとした顔で、
「は? なんなんいきなり。い、意味わからんし」
と答えたものの、真吾の真剣な目は、わたしを捉えて離さない。
頼むから、はやく信号が変わってくれと願ってみても、一秒が永遠にも感じられるほど長い。
いつになく真吾の目が血走っている。寝不足なのだろうか。それとも激務が続いたのだろうか。それともまさか、もうすべてを知っている?
健介が美春の嘘に気付いていて、それを既に真吾に相談しているのだろうか。だとしたら、その場合、わたしはどうすればいいのだろうか。
この場で美春に相談メッセージをこっそり送信するような余裕もない。隣に座っているのだから丸見えだ。
唇の震えを必死でごまかそうとするわたしにむかって、真吾は言った。
「俺が、そんなにも信用できひんか。俺と結婚するんが、そんなにも嫌か。それともまさか、俺の子やないとか言い出すんちゃうやろな」
は?
「……へ?」
今度は演技でもなんでもなく、本物のすっとぼけた声が出た。声と言うより音に近かったかもしれない、とにかく本当に驚いた時、人間と言うのは声にならない声を発してしまうものなのだ。
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