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「え、ちょ、ちょっと待って、真吾、あんたなんの話してんの?」
「嘘下手なくせにとぼけんな。お前……、妊娠してるやろ」
真吾の顔が真っ赤になる。それと同時に、信号がようやく青になり真吾は慌ててアクセルを踏んだ。走り出す車。流れて行く、見慣れた景色。昼間の通天閣はどこかすっとぼけていて、どんくさそうなところがまるでわたしみたいだ。
真吾が言っていることの意味がすぐには飲み込めず、固まってしまう。
妊娠?わたしが?
いったいどこでなんの情報を得て、どう勘違いしたらそうなるのだろう。
「してないで。っていうかあんた心当たりもほぼないくせになんでそんな勘違いできたんよ!」
自分で言いながら、ばかばかしくなった。
真吾はどうしてそんなに大真面目に、真っ赤になって怒っているのだろう。
わたしが妊娠?そんなことは可能性としてほぼゼロに近いはずなのは、真吾が一番わかっているはずなのだ。
「じゃあ、誰の子やねん!」
「だから妊娠なんかしてない言うてるやん!」
「俺の彼女と産婦人科で会ったって俺の職場の先輩が言うてた。先輩が見間違うはずない。その先輩、視力2.5やぞ!」
泣きそうになりながら必死で怒る真吾を見ていたら、なんだか急激に愛しさがこみあげてきた。自分の子である可能性がほぼゼロに等しいのに、真吾はわたしと結婚したいと切り出したのだ。
その先輩がわたしを見かけたとしたら、きっと美春に付き添って産婦人科に行った時だろう。美春の検診中はわたしひとりで待合室にいたから、勘違いされても無理はない。
「ちょっと事情があって、知り合いに付き添っただけ」
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