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「もしもし?」
少し苛立った様子で真吾はスマホを耳元に近付ける。
「……は?なんて? おい、泣くなって!落ち着け!」
いきなり怒鳴る真吾に少し驚く。
泣くなって、誰?
真吾に電話をかけてきて、いきなり泣くなんて、相手はひょっとして女だろうか。
元彼女に泣きながら復縁を迫られて、自殺をほのめかされたりなんかして、断れない優しい真吾はなぐさめるために急に彼女に会いに行くことになったりしてしまうのだろうか。
「おい、泣くなって!なに言ってるかまったく聞こえへんぞ」
わたしは冷静を装って、真吾の顔をこっそり覗き見る。
相手がもしも女なら、今すぐ電話を切って欲しい。もちろんそんな可愛い彼女みたいなことは、言えないに決まっているけれど。
「もうええ!今から行くわ!そこで待ってろ」
心臓が、痛いくらいに鳴っている。
行くん?
今から?
女に?
そんなん、真吾を呼び出すための罠に決まってるやん。
なんで真吾はわからんの?
わたしの気持ちはどうなんの?
真吾は苛立った顔でスマホを置いた。
そしてわたしに向かって言った。
「今から美春ちゃんとこ行くで!なんか知らんけど、健介あいつ、めちゃくちゃ泣いとんねん!泣きすぎて、何言ってるかワケわからん!」
美春?健介?
「なんや……元彼女とかかと思った」
うっかりそのままを呟いてしまい、しまった、と思う。
「何言うてんねん!元彼女なんかおらんわ!」
「え?え?おらんって、え?嘘やろ?」
「黙れ。それ以上言うたらしばく」
真吾の顔が真っ赤になり、車はまた走り出した。健介が待つ、美春の部屋に向かって。
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