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◇
「塔の上の王女になりたいの」
古い映画のあの台詞。初めて聞いたのは小学生の頃だった。
そのとき子どもながらに思った。
「あ、わたしと一緒や!」と。
白馬に乗った王子様がやってきて、塔の上に閉じ込められたお姫様を助けてくれる。
まだ純粋で綺麗な心を持っていたあの頃のわたしは、そんなおとぎ話のような恋を夢見ていた。
高い塔の上から垂らすことができるほど長い髪をした童話の中のお姫様に憧れて、わたしも髪を伸ばした。腰まであるロングヘアは、わたしの自慢だった。
それからいくつかの恋をして、現実はそんなに甘いもんじゃないと知った。
男なんてみんないくじなしで、優柔不断な下心のかたまりだ。
白馬に乗った王子様なんて、日本には存在しないことも知った。
すっかり夢のない大人になってしまった28歳のわたしは、それでも心のどこかで、まだ運命の恋を待ちわびている。
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