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「ほんま、あやは色気ないなぁ」
呆れ顔で美春。仕事帰りなのか美春はメイクもばっちりだ。目立つ美人の美春とイケメンがふたり。ジャージすっぴんのわたしだけが浮いている。
「ほっといて。そんなん言うんやったらもー帰ろかな」
美春を睨むふりをしながらわたし。いくら近所のたこ焼き屋とはいえ、こんな三人と並ぶのは気が引ける。
「うそうそ、ごめん。この二人にあやの話したらな、ぜひ会ってみたいって言うからさ、それで電話してん。なっ」
美春が女の顔になってイケメン二人組に目配せすると、イケメン二人のうちの片方がニコッと微笑んだ。もうひとりは、無表情でわたしを見ているのかいないのか。
ふたりにそろって見下ろされると、威圧感がものすごい。わたしの身長が155センチだから、二人ともたぶん180センチはあるだろう。
「あやちゃん、はじめまして。健介です」
イケメン二人組の綺麗なほうの顔をした男が言った。
健介さん。人懐こいよそいきの笑顔を顔面に貼り付けた、いかにも女にモテそうなタイプだ。
「俺ら美春ちゃんとはこないだ知りおうたんやけど、あやちゃんは美春ちゃんとはかなり雰囲気違うんやな」
健介さんが笑った。そりゃあそうだろうと思うわたし。
毎日メイクばっちりで客商売をしているやり手アパレル店長の美春と、毎日すっぴんジャージで子どもたちと一緒に泥だんご作りをしているわたしが似ているはずがない。
「すみませんねえ、期待はずれで。ちょっと美春、健介さんが女の子チェンジして欲しいって」
わたしが言うと、健介さんはまた笑う。
「ちょっとちょっとあやちゃん!そんなん言ってないやん!」
「ちょっと健介!あやは傷つきやすいんやからやめたってよー」
健介さんの二の腕を掴んで甘えたような声を出す美春。自他ともに認める男好きは、同時に男性の喜ぶツボを熟知している恋愛マスターでもある。
そういえば高校生のとき、彼氏に可愛いメールを送りたくて美春に代わりに打ってもらったこともあったっけ。
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