第1章

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 小さな池の側で、静かに暮らしていたのが、 上品で物静かなカエルの奥さん、パトリシア。 旦那が殿様カエルのお城で、泊り込んで仕事に 一生懸命でした。旦那はパウエルと言いました。  普段は近所の弟と過ごしていました。 小さな虫を捕まえたり、池のほとりで 釣りをして小魚を、吊るして干していました。 一日の用が早く済むと、小説を読んだりします。 あそこの部分や、ここの件が好き。  でも何より楽しみは、どの部分でもなくって。  パトリシアの旦那は、お城でも勇敢な騎士で とても勇ましく、パウエルは強いカエルでした。 昔の戦で片目を不自由にしてから、眼帯で右目を 隠してはいたものの、その勇敢さは前以上でした。  ある夕暮れになる頃に、お城からパウエルが 突然、戻って来ました、一人だったパトリシアは 長いお役目が終って、休暇を頂いたと嬉しくなり ご馳走を用意して、カエルのお酒も上等なのを 用意しますと言いました。  ところがパウエルは、少し困ったような顔をして 実は今夜だけ内緒で、お城を抜け出してきたから 朝までには戻っていないと、ダメなんだ。 だから、この事も内緒にしていて欲しい。  それでもパトリシアは、たった一日でも久々に 一緒に過ごせるのだからと、はりきって料理に 取り掛かりました。パトリシアは普段からも 何かの時の為に、色々な食材を用意していたので パウエルに、何が食べたいか。それを訊こうして お酒を一杯、呑んでいるパウエルをキッチンから 見ました。  何かおかしいのです。声も堂々とした態度も パウエルなのですが……。あ、眼帯が左目です。 気付かれぬように、ご馳走を並べていって 美味そうにパウエルが、食べている間に パトリシアは、近所の弟の所へ行きました。  弟も変だねぇ。と言って一緒にパトリシアと 家までついて来てくれましたが、もうガランと 誰もいなくなっていて、ご馳走もお酒も全て 無くなっていました。  それから1年ほど過ぎて、本物のパウエルが ちゃんとお城のお役目を終えて、休暇になって 帰宅してきました。ちゃんと右側の眼帯です。  ところがパウエルは久々に我が家に戻ると ビックリしました。パトリシアが二人いるんです。 顔も姿も、仕草も声も、全く同じなのです。  しかもパウエルにはパトリシアが二人に見えて パトリシア本人は一人づつ、一人しかいないように 料理をして、掃除をして、よく働くのです。
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