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髪を漉く美知香の手首をそっとつかんで、口元へもっていく。
先の硬くなった人差し指、ペンだこのできた中指を舌の上に載せて、慈しむようにゆっくり上顎で包みこむ。
ふ、と美知香がくすぐったそうな息を吐く。
もっと、もっと、赤裸々で痛々しい台詞を書いて。
そして、私を裸に剥いて泣かせて欲しい。
この指の紡ぎ出す『嘘』の中でだけ、私は自分の鼓動を感じることができる。
何が演技で、何が真実なのか、誰も知らない。
樹々が騒ぐ。
窓から、金木犀の香りが吹き込んでくる。
秋は深まり行く。
赤いびろうどの幕が上がったら、舞台の上は別世界。
今年も、二人だけの『嘘』を始めよう。
了
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