アンチロヂック・ドラマシアター

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あれはいくつの時だったろう。 水族館でショーを見ていた時、曲芸を成功させたオットセイが小魚をもらうのを見て、まるで周囲の愛情を乞う自分のようだ、と笑いそうになってしまったことがある。 いつも正しい答えを用意して、周囲の期待に応えるよい子。 今はもう。 やっかまれても、利用されても、可愛げが無いと言われても―――痛くもかゆくもない。 今の私は、ただの役割の集合体だ。 ―――傷つく心なんて、もうとっくに無いんだからさ。 「僕は本当のあなたを知っています。みんなのために損な役を引き受けて、一生懸命働く優しい人です。」 と、体育館裏で真っ赤になって打ち明けてくれた男子もいた。 おかしなことを言う人だと、気味悪そうにみつめることしかできなかった。 私はただの、『役割』なのに。中身はとっくにからっぽなのに。 今さら「あなたの心が知りたい」なんて誰かに言われても困るのだ。 心というものは、押し殺しているうちに溶解してかたちのなくなってしまうものだと、無くして初めて理解した。 氷の解けた水の中を、いくらすくっても何も出てこない。 自分が本当はどうしたいのか、私にはいつもわからない。 この白い乳房の内側は、ただのからっぽの空洞なのだと、誰かに知られるのが怖かった。 だから。 本当は、役割を押し付けられていたわけではないのだ。いつのまにか、私にはそれが必要になっていた。 せめて外面(ソトヅラ)くらい飾らせてよ。 からっぽの中身だけじゃ、ただの空気にしかなれないんだ。
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