アンチロヂック・ドラマシアター

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「ああ、やっと来たね。シイナは人気者だから。」 部室へ向かう廊下の途中で待っていた美知香(ミチカ)が、眼鏡の奥の目を細める。少し垂れ目の目尻がよけいに下がる。 「次期部長、体育館の話つけといたよ。東先生がなんとかしてくれるって。あと、来年度の活動費も安心しといて。」 「さっすが。」 私は廊下に人目がないのを確認して、美知香のネクタイを握る。息がかかるほど顔を近づけて、囁く。 「ねぇ、ご褒美は?」 鼻から抜ける甘い声。 唇を重ねながら、美知香のネクタイを抜きとって、シャツのボタンを上から三つ、外していく。 使われていない教材室は、図書室によく似た匂いが漂う。 午後の日に、埃がきらきら舞うのが見える。 校庭に面した窓から見えないように、カーテンの陰に美知香をおしつけて、柔らかい胸に頬をうずめる。 「シイナにも立派な胸があるのにさ。」 笑いながら、それでも美知香は私の髪を指で漉いてくれる。 「いいの。美知香のがいいの。水枕みたいで柔らかい。」 美知香が喉を鳴らして笑う。 そんなひそやかな笑い声が好き。 人に甘えるためには、どんな理屈をつけたらいいのだろう。 その解答だけは、いつもみつけられなかった。 だから、私は一つだけ、自分の人生に不条理を持ちこむことにした。 美知香と二人でいる時の私は、正しくない。
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