ロドン~魯鈍~

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小説部門「ロドン~魯鈍~」 「アリガトウ」…そう言って君は微笑んで、ソレカラ…。ソレカラ…。 月のない静かな夜に、虫の音だけが響き渡る。星の瞬きもない。僕は温い水を口に含み、大きく深呼吸をすると、時間を掛けて目を閉じ、時間を掛けて、眠りに着いた。ダイジョウブ、ダイジョウブ…コワクナイ…コワクナイ…。 ―――一人ニシナイデ。一人ニシナイデ。 一人ハ…。  再び目を開ける。静かに開ける。僕は紫の草原に佇んでいる。頭上には、顔のある、淡い桃色をした月が出ていた。ソレは目を閉じて、スクゥ、スクゥ…と寝息を立てている。とても穏やかそうに眠っている。クレヨンで描いたような、落書きっぽい無数の星達。瞬きに合わせて微かに、ピリィーン、ピリリィーン…と音が聞こえる。風が吹くが、冷たさも、暖かさも感じない。ゾザァ、ズザァ…と揺れる草木に心が乱される。ココハユメ。ココハユメ?ダイジョウブ。ダイジョウブ?コワクナイ。コワクナイ?一羽の梟が、ボォ、ボォ…と鳴き、僕に存在を示した。片翼が鋭い鋼になっていて、風が吹くと、ソレがぶつかり合って、カキリィン、カキリィン…と高い金属音を奏でる。何も寄せ付けず、全てを切り裂きそうで、コワイ、コワイ…。ロボットのように、時計の針のように、キシシッ、キシシッ…と、ゆっくり、どこかぎこちなく、首を動かし始めた。四十五度を過ぎた辺りで首は止まり、その角度で僕と目が合う。コワイ、コワイ…。生死を感じられない目と、僕の目が合う。コワイ、コワイ…。ズザザザザァーッ…と強い風が吹くと、梟は大きな羽を広げ、木から離れた。孤独を感じないように、怖くならないように、僕は瞬きも躊躇い、必死に梟を追い掛けた。深い緑色の空を優優と飛ぶ梟。その差は広がるばかり。待って、待って、置いて行かないで…。僕は泣き叫ぶ。でも、届かない。いつも届かない。僕の声は、色んなざわめきで掻き消される。いつも掻き消される。無視をされる。いつも無視をされる。いつも…いつも…ネェ、僕ハ此所ニイルヨ…。 ―――一人ニシナイデ。一人ニシナイデ。 一人ハ、コワイ。
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