ロドン~魯鈍~

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 海に近付くと、さっきまでいなかったはずの其所に、彼女が立っている。砂浜には僕の僕の足跡しかない。いつから其処にいるの?彼女は海の中で、ただ立っている。静かに、とても静かに、ただ立っている。それだけで悲しい。それだけで悲しい…。しばらくすると、何かが沢山飛んで来た。海に溶け込みそうな黒い羽と、綺麗なようで怪しく光る青い身体。それは、羽黒蜻蛉。ヒュルラ、ヒュルララ…と舞い、ヒュルラ、ヒュルララ…と彼女の元へ集まる。彼女はそっと手を広げ、蜻蛉達を迎え入れる。何かを愛おしそうに、何かを愛したそうに、彼女はそっと包み込み、抱いていた。とても静かで、とても冷たく、とても悲しい…。あぁあ、今この瞬間から、僕はモノクロの世界にいる。他の色は何も映さない。映してくれない。ただ、身体中を覆う包帯からは、鮮やかな赤色が滲む。赤だけが映える。とても騒然で、とても温かく、とてもとても悲しい…。どんな感情からなのか、僕の頬を涙が伝った。けれど、ソレを消すかのように、また温度を感じない風が、ズザザザザァーッ…吹き荒れた。目を閉じ、風が止み、再び目を開ける。静かに開ける。彼女と目が合った。僕と目が合った。なんとも言えない、真っ黒な、真っ黒な目。目。目。目。怖イ、怖イ、コワイ、コワイ…。崩壊寸前…。 ―――一人ニシナイデ。一人ニシナイデ。 一人ハ、コワイ。 一人ハ、サミシイ。 ダカラ見テ…。 此所ニイルヨ、此所ニイルヨ…。
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