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此所ニイルヨ、此所ニイルヨ…。
存在スル意味ヲ、奪ワナイデ…。
生キテ来タ証ヲ、消サナイデ…。
オ願イ。
気が付くと僕は砂浜にいて、彼女は海の中にいた。黒い、黒い、真っ黒な海。全てを呑み込みそうな海に彼女はいる。底の見えない黒い海で、泣きながら何かを必死に洗っている。包帯なのか、自分自身なのか。手の筋がはっきりと分かるほどに力を入れて、グュワシ、グュワシ…と洗っている。何がそれほど、汚らわしいのだろう。何がそれほど、煩わしいのだろう。砂浜には僕の足跡しかない。いつから其処にいるの?何かを叫びながら、泣きながら、暴れている。波が疎ましいかのように、打ち寄せる度に掻き消そうと必死になっている。黒い海に、月と星が映り込み、その中で彼女は何かを叫びながら、泣きながら、暴れている。彼女の周りだけ波紋があり、月と星が映り込まない。だから、きっと僕も映り込んでいない。悲しい、悲しい、悲シイ、悲シイ…。崩壊寸前…。
―――一人ニシナイデ。一人ニシナイデ。
一人ハ、コワイ。
一人ハ、サミシイ。
ダカラ見テ…。
此所ニイルヨ、此所ニイルヨ…。
存在スル意味ヲ、奪ワナイデ…。
生キテ来タ証ヲ、消サナイデ…。
オ願イ。
君ハ、君ノママデ、
僕は目を覚ました。僕の耳の傍で、彼女の泣き叫ぶ声が鳴り止まない。泣き止まない。不協和音を奏でていて、鳴り止んではくれない。泣き止んではくれない。その音が木霊して、塞いでも、塞いでも、僕の耳を占める。煩い、煩い…。それは、冷たい音。冷たくて、冷たくて、僕の耳は痛い。此処は現実。此処が現実?今日も彼女は頭から離れない。離れてはくれない。目を開けても、閉じても、不協和音が木霊をして離れない。僕の意思とは関係がない。悲しい、悲しい、悲シイ、悲シイ…。崩壊寸前…。眠ればまた、彼女に「あう」のだろうか。花弁が舞い散る夜は、枯れ果てた音がする。星の瞬きもない。僕は温い水を口に含み、それと同時に、違和感を喉に感じた。幾つも感じた。大きく深呼吸をすると、時間を掛けて目を閉じ、時間を掛けて、眠りに着いた。ダイジョウブ、ダイジョウブ…コワクナイ…コワクナイ…。僕は彼女に「あいたい」。「あいたい」?僕にあってくれるのだろうか…。ナゼ君ハ、必死デ拒絶ヲスルノ?
―――一人ニシナイデ。一人ニシナイデ。
一人ハ、コワイ。
一人ハ、サミシイ。
ダカラ見テ…。
此所ニイルヨ、此所ニイルヨ…。
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