KISS OF A BLACKBERRY

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それは、見棄てられた家に特有の煤けたような建物だった。 部屋には、少し黴臭い匂いと、そして、キナ臭い硝煙の匂いが漂っている。 オレゴン州デシューツ郡ベアズホール。 地名のとおり、熊やエルクが人間より多い土地柄だ。 いちばん近い人家からは、軽く十キロは、離れた森林地帯である。 由香は、窓に近づくと、顔を晒さないように注意しながら、ショートボブの髪をかきあげ、外の様子を伺った。 ――瞬間、頬を張られたような衝撃と、乾いた炸裂音、そして、木の壁に銃弾が喰いこむ鈍い音が同時に響いた。 思わず頸をすくめ、窓際から後ずさる。 ガラスの破片が掠めたのか、白いシャツの左袖が血で赤く染まっているが、緊張のためか痛みは感じない。 射ちこまれたのは、これで三発。銃声は、比較的軽いものだった。おそらく5・56ミリ、いわゆるNATO弾と云われる銃弾を使用した、アサルト・ライフルだろう。 由香の手が無意識に、ヒップホルスターのグロック17をまさぐる。頼もしい味方だが、アサルト・ライフルが相手では、いささか心もとない武器だ。 改めて部屋のなかを見渡す。 二十年近く使われていないはずだが、テーブルや家具は、依頼者によって、引っ掻きまわされた形跡がある。 猟小屋として使われていたらしく、壁ぎわにガンラックがあったので、中を改めた。
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