30人が本棚に入れています
本棚に追加
ラックを開くと、スコットのフライロッド。ハンガーに掛かった、フィッシングベスト。L.L.ビーンのハンティング・ジャケットが目に入った。
ジャケットを退けると、12ゲージのショットガンと、ウィンチェスターM-70が、棚には、緑と黄色の古ぼけたレミントンの弾薬箱が無造作に置かれている。
(なんとか切り抜けられるかもしれない……)
****
――三日前。
由香の事務所を、ひとりの男が訪れた。
男は、セルフレームの眼鏡をかけ、ブリオーニのチャコールグレーのスーツを身につけ、鏡のように磨かれたジョンロブのストレートチップを履いていた。
そして、ボストン訛りの気取ったしゃべり方で、高飛車に仕事の話をはじめた。
「君の評判は聞いている。
元PMC(民間軍事会社)の腕利きで、荒っぽい仕事も難なくこなすそうじゃないか。
なに、簡単な仕事だ。わたしの父が残したCD-Rを回収する……たったそれだけ。
まあ、多少、妨害が入るかもしれないから、武器は携帯したほうがよいだろう……」
****
「FUCKIN' SHIT!!
糞オヤジめ。何が“多少”だ!」
由香は、ウィンチェスターの機関部を点検しながら毒づいた。
ショットガンは、錆びが酷く使い物にならない。
ウィンチェスターは、たっぷりガンオイルが点してあったので、どうやら作動はするようだ。あとは、弾丸が駄目になっていないことを祈るばかりだ。
最初のコメントを投稿しよう!