KISS OF A BLACKBERRY

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ラックを開くと、スコットのフライロッド。ハンガーに掛かった、フィッシングベスト。L.L.ビーンのハンティング・ジャケットが目に入った。 ジャケットを退けると、12ゲージのショットガンと、ウィンチェスターM-70が、棚には、緑と黄色の古ぼけたレミントンの弾薬箱が無造作に置かれている。 (なんとか切り抜けられるかもしれない……) **** ――三日前。 由香の事務所を、ひとりの男が訪れた。 男は、セルフレームの眼鏡をかけ、ブリオーニのチャコールグレーのスーツを身につけ、鏡のように磨かれたジョンロブのストレートチップを履いていた。 そして、ボストン訛りの気取ったしゃべり方で、高飛車に仕事の話をはじめた。 「君の評判は聞いている。 元PMC(民間軍事会社)の腕利きで、荒っぽい仕事も難なくこなすそうじゃないか。 なに、簡単な仕事だ。わたしの父が残したCD-Rを回収する……たったそれだけ。 まあ、多少、妨害が入るかもしれないから、武器は携帯したほうがよいだろう……」 **** 「FUCKIN' SHIT!! 糞オヤジめ。何が“多少”だ!」 由香は、ウィンチェスターの機関部を点検しながら毒づいた。 ショットガンは、錆びが酷く使い物にならない。 ウィンチェスターは、たっぷりガンオイルが点してあったので、どうやら作動はするようだ。あとは、弾丸が駄目になっていないことを祈るばかりだ。
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