KISS OF A BLACKBERRY

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**** ――六年前。 「なんでよユカ! どうして出ていくの? わたしのことが嫌いになったの?」 「そうじゃない。けど……シンディ。ごめん」 ユージーンは、州で三番目に大きな都市。オレゴン大学の街である。 昔からゲイには寛容な街で、レズカップルを白眼視する住人はいない。 ふたりは、大学構内の掲示板の、ルームシェアの貼り紙を介して知り合った。シェアは、アメリカの学生間では、比較的ポピュラーなスタイルである。 由香は、親の遺産で、フライフィッシング、ハンティング、コンバット・シューティングを趣味に、気楽なキャンパスライフを謳歌していた。 一方シンディは、子どもには、まずナイフの研ぎかたを教えるようなこの州で生まれた。 初めてライフルを撃ったのは、八歳のときだ。 ふたりは、週末のたびにキャンプや釣りに出かけ、やがて、愛を確かめあうようになった。 「だったら、あやまったりしないで!」 「ごめん。あたしは、あたしが何を出来るのか、それを確かめてみたいだけ。 あなたが嫌いになったわけじゃないの」 「わかった。さよならユカ……」 **** 由香は、ウィンチェスターを構えたまま、斜面を下りる。相手が元恋人でも、いささかも油断しない。戦場で身についた習慣だ。 「シンディ、久しぶり。 会いたかったわ。相変わらず綺麗ね」 「あなたも素敵よ」
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