337人が本棚に入れています
本棚に追加
「一華じゃーね」
ナナの浮ついた声が背中に届いたけれど、振り向く事はしなかった。
隣にいるであろう須藤さんを、視界に入れなくなかったから。
今はプライベートとはいえ、一応職場関係者の人にこんな場面をあまり見られたくない。
「どこ行こっか?」
飲んでいた居酒屋の道路を曲がり路地裏に入ると、どこか期待の色を含んだ声を発したヨシキ。
どうせラブホ行きたいんでしょ。
見え透いた回りくどい事、言わなくていいのに。
利用するのは───あたしなんだから。
お望み通り、言葉にしてあげる。
「2人っきりに……なりたいです」
視線を自分のヒールに移して、あくまでも恥じらう女を取り繕う。
「じゃあ……あそこのホテ─」
「キャ…っ」
至近距離にヨシキの顔があったはずなのに一瞬で遠く離れ、腕には軋む感触を感じた。
最初のコメントを投稿しよう!