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……誰も帰るなんて言ってないのに。
でもあたしの態度がそう思わせていたのかな。
付き合っていても“好き同士”じゃないから、須藤さんには漠然とした不安が常に付いて回ってるのかもしれない。
ましてや昨日の今日だしね。
あたしの隙間を埋めてくれると言った彼なりに、きっと試行錯誤しているんだ。
「何を見せてくれるんですか?」
なんとなく申し訳ない気持ちが背中に張り付き、それを振り払うように言葉を紡いだ。
須藤さんはみるみる内に笑顔になり、顔を綻ばせる。
「それは着いてからのお楽しみです」
須藤さんは子供がイタズラを企むような無邪気な微笑みを浮かべながら、人差し指であっちと方向を示しながら再度足を進める。
なにそれ、と内心溜め息を付きながらも、あたしの歩調に合わせて歩いてくれている後ろ姿を追った。
「あ」
思いついたように振り返る須藤さん。
そして緩く口で弧を描きながら、あたしの前に手を差し出した。
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