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「寒いですね、すみません。あとちょっとで着くので」
一定の歩調のリズムを刻むあたし達を、頬を刺すような冷気が通り抜ける。
そこでハタ、とある事が頭を過ぎった。
「……須藤さん車、コインパーキングにあるんですよね?」
「………っ!」
その質問を聞くなり、須藤さんから笑顔が消え狼狽え始めた。
視線はあちこちをさ迷い、眉は不自然な方向に動く始末。
「すみません……、宇佐美さんと並んで歩きたくて。
寒い思いをさせてしまうと思ったんですけど……
すみません」
観念した須藤さんは頭ごとうなだれ、叱られた犬みたいに大人しくなった。
イケメンがこんな姿しちゃダメでしょ。
何もこんな寒空の下、並んで歩かなくても……
別にいつでも並んであげるのに。
「今度からは……お昼でお願いします」
「はい……すみません」
「今日は特別です」
「はい……あ、なんなら腕を組むともっと暖かくなりま───」
ギロッと睨み上げると、須藤さんはピシッと岩のようにその場で固まった。
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