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ヘルヴォルは、そう言いました。精霊が言うには
この大きな風は沢山の剣を造る為に、巨大なふいごで
風を起こしているのだと。
そして風を起こしているのは、いま剣を造っている
ヴェルンドであり、彼は父親を殺して頭蓋骨に銀を塗り
それを盃にして、私を奪い去ろうとしていると。
彼の本当の名前は、ウェーランド・スミス。
『鍛冶師の妖精王』だというのです。
ウェーランド・スミスが今、造っている剣は逆に
我国を滅ぼす剣になります。古代のニーズズ王の時代
ウェーランド・スミスが復讐を考えるような事が
あったというのです。どうしたらよいのでしょう。
ラング親方は考えるが、朝まで時間はどんどん迫る。
愛する娘のヘルヴォル、裏切りの妖精ヴェルンド。
そしてベルイスラーゲルナ鉱山町の、ラング親方。
全く違う立場と考えが、奇妙な三角関係のように狂う。
精霊が守ってくれるかもしれぬ。
強風の中、裏庭へ出て無理にニワトリを追い立てて
鳴かせてみて、朝になったフリをしようと試みたが
小さく、コッコと鳴く程度。それも強風で消えていく。
もはや打つ手が無いと思った。そうして遂に風が
穏やかになってきた。明け方が近いのだ。つまりは
100本の剣が出来る寸前なのだ。
全て諦めかけた時、娘は風が弱くなったので仕事場の
音を扉越しに聞くいてから、まだ鉄を打っている音がした。
そこで、お客様の時に使う大鍋を、父親に持ってもらって
二人は静かに裏庭へ出てから、井戸で鍋一杯に水を汲んだ。
二人がかりで何とか、必死に水いっぱいの大鍋を運び
思い切り仕事場の扉を蹴り開けて、倒れるように水を
炉に思い切り被せた。
だが、ウェーランド・スミスは笑った。
全て気がついたのか。だがもう遅い。いま造っている剣が
100本目なのだ。そして充分に熱いから、すぐに完成する。
止めようとしても無駄だと、判るだろう?
さぁ約束通りこれで最後、100本目の完成な
コケコッコー。
朝だ。本物の太陽だ。
ウェーランド・スミスは、笑った顔のまま鍛冶ハンマーを握り
倒れて石にになり、砂になり、風に吹かれて外へ消えていった。
古エッダの「ヴェルンドの歌」による。
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