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そう言って背を向ける綾香に微笑みつつ、私は店を見上げた。カフェ『マーカーズ』。一度離れて、でも忘れられなくて、結局一緒になった私と綾香だけの世界であり、指標。もう二度と迷わない様に、帰る為の目印。
「あーやか!」
「ひゃ!? ちょっと、いきなり抱き付かないでください!」
「いやぁ、三日も離れてるとさぁ……やっぱり綾香が恋しくてね」
「もう、本当に馬鹿ですね真綾は……」
満更でもないらしい綾香は、私の手を握って小さく笑う。そんな彼女は、あっ、と何かを思い出したかの様に声を上げた。
「そういえば、例の本……“アヤノ”のダイナマイトなんとかは有ったんですか?」
「ん、あぁ、あったあった。まさか県を跨ぐ羽目になるとは思わなかったけど」
何処にでもライバルってのは居るもので、恋もまたしかり。ポニーとボブの間に入ったマリーの様に、私達の間に入ったのが彩乃(あやの)だった。どういう因果か知らないが、彼女は今や百合専門の作家先生である。
「それで、今作の感想は?」
「予想以上に面白く無かったわ」
何時だって傷だらけのハッピーエンド。そんなの、とっくに見飽きてる。全てを捨てた私達の笑い声と、苦み走ったコーヒーの香りが、妙に現実を醸し出していた……。
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