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「いらっしゃいませ」
丁度その時だ。入口のベル音と、奥から出てきた店員の静かで上品な声が響いたのは。全く、タイミングが悪い。恥ずかしくも上げかけた手で、肩に掛かった茶色い長髪を払い、然り気無く来客の姿を窺う。見覚えのある制服を纏った二人組……近所の中校生だ。
『これは、困った事になりそうだ』
二人の雰囲気を見て、そう私は悟った。大人しそうなボブカット女子は何やら思い詰めた様子で、もう一人の活発そうなポニーテール女子は無理に笑顔を作っている感じだ。ポニーとボブ、か。ポニーが引っ張る形で、二人は私の斜め後ろの席に座った。私の視界で、ポニーの尻尾が可愛らしく揺れる。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
手早く席に着いた二人にお冷やを出すと、にっこりと笑って奥へと引っ込む。おい、私のコーヒーはまだか。なんて思っていると、ポニーがわざとらしく声高にメニューを広げた。
「ここの紅茶美味しい、ってマリーが言ってた! あ、ケーキも美味しそう……」
「……話しても、良い?」
それを、ボブが低い声で遮る。その声は僅かに枯れていて、目元は少し赤くなっていた。
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