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あーあ、やっちゃった。私は、思わず目を伏せて本を閉じた。渇いた音が尾を引く室内、啜り泣く音が静かに起こる。
「……ご、ごめん、水面……私、カッとなって……今のは、違っ」
「優の馬鹿ッ! もう、優なんて知らない!」
パシャンと弾けた水の音。それから走り去る足音と、乱暴に開閉された扉の音。勢い良く揺れたベルが、悲しく鳴いた。再び目を向けると、席に座ったポニーは頭を抱えていた。
「クソッ……私に、どうしろっていうのよ……!」
「選べば良いんじゃない?」
立ち上がった私は静かに歩み寄り、鞄から取り出したハンカチを彼女へと差し出す。苛立たしげな表情で見上げてくるポニーは、自らのハンカチを取り出して、ボブに掛けられたであろう顔の水を拭き始めた。
「……貴女に関係無いでしょ?」
「そうだね、確かに関係無い。偶々居合わせた赤の他人。それを承知で言わせて貰うわ」
持っているハンカチで口元を隠し、睨むポニーを見詰める。その姿が、何処か昔の“誰かさん”と重なった。だから、だろうか……言わずにいられなかったのは。
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