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私の言葉に、ポニーは店を飛び出した。その尻尾を振りながら、大事な物を追い掛ける為に……って、ありゃ、鞄忘れてるよ。
「おーい、鞄……って、もう見えない」
私は、再び上げた恥ずかしい手で頭を掻いた。取りに帰ってくるだろう、多分。ひゅう、と吹き抜けた風が髪を揺らす。そう言えば、私のコーヒーはどうなったのか……まぁ、良いか。今は、背中も見えない彼女達の青春で胸が一杯だ。
「ご注文のコーヒー、入りました」
「……若いって、良いねぇ」
「は、い、り、ま、し、た!」
がいんっ。小気味良く鳴った金属音は、私の頭と何かがぶつかって生じた物である。痛みに振り向くと、銀色トレイを抱えて頬を膨らませたカフェ店員、綾香(あやか)が立っていた。一度も染めた事の無い、美しい黒髪を後ろで纏めている―所謂、夜会巻き―彼女は、肌も白くてとても綺麗だ。
「……おい、綾香。私のコーヒー、出すの遅すぎやしないか?」
「何を言ってるんですか、どうせ店の経費で落とすのでしょう? そ、れ、に! 本を探しに行ったきり、三日も音信不通だった人には当然の対応です! 反省してください!」
「……ぐぅの音も出ませんわ」
「まぁ、別に良いんですが……もう閉店ですし、私も真綾(まあや)と一緒に飲みたかったので」
「何か言った?」
「いーえ、何でもありませーん。早く入って、コーヒー飲んじゃってください」
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