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暫く見つめていると、完全に目が覚めたんだろう、無知が目を開いた。
そして俺のことを見て、ビックリしていた。
そりゃそうだ、突然の出来事なのだから。俺だってビックリしたんだし。
「あ、咲弥さん、あれ、何で?」
「気付いたらこうなってたよ」
「僕あの後泣いて…あ!そうだった、咲弥さんに抱き締められたんだ、それがあまりに気持ちよくて…すみません、すっかり眠ってしまいました…」
いいのいいの、俺にとったらチャンスだしね。
「よっぽど嬉しかったんだね、プレゼント喜んでもらえてよかったよ」
「はい…あの、何か居心地がよくて、すみませんでした…」
「そう?俺といて安心した?」
「はい、おかげさまで…」
「ならよかった」
咲弥はニコニコしている。怖い人なんて、失礼だった。僕のためにあんなことしてくれたんだから。
きっと大変だっただろうな…。
今は嬉しい気持ちでいっぱいだ。
「左腕があったら、抱き締められたんだけどな、なんちゃって」
わざと冗談ぽく言う。本気で言ってるってばれたら、引かれてしまうかもしれないし。
「その方がもっと安心出来たかもですね」
…なんと!これは冗談か?本音か?
「昔お父さんに抱き締められたのが最後だったから…咲弥さんと一緒にいると安心するし、心配事とか全部なくなって…だから頼っちゃったのかも」
そうか…いいお父さんだったんだな、可哀想に、まだ忘れられないのか。でも、うーん、もっと無知君にとって大きな存在になりたいなぁ。
「僕誤解してました」
「へ?何が?」
「敦士お兄ちゃんも言ってた、咲弥さんは凄くいい人だって、でも僕は正直昨夜何が起こるか怖くて…でもあんなに嬉しいこと…、怖い人なんて思ってごめんなさい」
頭を下げる無知。
何だ危なかった、恋しているのがバレる寸前だったのか。きっと知らず知らずに見つめていたり変なこと言ったりしてたのかな。
普段適当なことをぺらぺら話せる咲弥にとって、言葉を選ぶのは難しかった。
頭はいいのに、…いつも思う。これで頭悪かったらただのくそやろうじゃねーか。考えるだけで焦るぜ。
ま、無知の誤解も解けたし、一件落着…じゃねぇんだよ。
せっかく二人きりなのに、せっかくただの図書館関係じゃなくなったのになぁ。どう動こう。
「あの、そろそろ帰ります、迷惑かけてすみませんでした」
ちょ、ちょっと待って待って!
「飯行かねぇ?」
「あ、はい、行きます」
純粋に離れたくなかった。
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