雫の涙

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雫の日課は、朝起きてすぐに新しい包帯を巻くこと。 その姿は正直誰にも見られたくない、両目がないから。 自分でもわかるけど、相当醜いと思うし、気持ち悪いに決まってる。 だから起きて信也が話かけてくる間も、少し待っててと後ろを向いて包帯を巻く。 巻き終えたらとりあえず珈琲飲んで、それから信也とトークタイムに入る。 雫はこの施設ではたまに点字の本を読む。点字は此処で習った。 それか編み物をしている、コツさえつかめば余裕でマフラーなんか編める。最近は冬に向けてセーターなんか作ってる。 信也に着てもらいたいからだ。 ちょこちょこ編んでる隙に、そこは赤がいいだの青がいいだの言ってくるので、注文通りに編んでいる。 そんな時間が大好きで、いつも大切にしている。 無知君と秋君で皆で話すのも好きだけど、やっぱり好きな人と話すのが一番大好き。 雫は誰より気を使う、自分のことも他人のことも。いい人だよと言わんばかりの笑顔で。だから悲しい時は隠す、他人が気にしてしまうから。 それ以外は本心で色々取り組んでる。 入ったばかりのころ、目も見えないのに全然知らない人達の部屋に入れられて正直恨んだ。 でも信也は違った。雫がビクビクしてても構わず話しかけてきた。声しか聞こえない恐怖。でも凄く優しい口調で…此処の事を説明してくれた。こんな優しそうな人がいるなら、怖くないとも思った。 日が経つにつれ、スッカリ此処の事がわかると、安心出来た。いや、信也の隣が安心だった。 この時から信也はどんな顔をしてどんな瞳なんだろうと考えるようになった。身長も、太ってるか痩せてるかも、笑顔になると見えるだろう白い歯を見たくなった。 だから今でも信也のことはイメージでしかない。いつか本当に見たいと願っているけど、それは無理な話だった。 両目がないんだもの。 こればかりは仕方ない。両目で済んでよかったのだ、こうして生きているんだから。 そう思っているのに…時々無性に悲しくなる。このまま誰の顔もわからず風景もわからず時間もわからず行きたいところにも行けず、一生を過ごしていくの? そんなの嫌だよ…。 雫は11歳から入ったから、もう3年。三年間何も見えていない。
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