メアの瞳

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「そんな…嘘だろ」 さっきまでのお調子もんが嘘のようだ。 沈黙が流れる。このまま永遠に続きそうで怖かった。 「誰にもって、椿や華ちゃんは?お前のこと本当に心配してるんだぜ?それを黙ってるっていうのかよ?」 「俺もそろそろガタがきてる、あと何日もしたら自由に動けないかもしれない…それまで、今までの普通の生活をしたいんだ、皆と笑いあった時みたいに」 椿、彼方、咲弥、華は四人で大親友だった。歳もバラバラだし、部屋もバラバラだったけど、何故かうまがあったのだ。だから皆が家族みたいになっていた。 彼方と華は関係があったけど、そんなの気にしなかった。椿は大人だし、咲弥は今と変わらずお調子者だったし。 そんなんだから、皆と一緒に居るのが楽しかった。だから別れたくない、でも現実は今も一秒一秒過ぎていく。 「気持ちはわかるけどさ、このまま何もなかったように過ごすのは反対だ、それこそ時間を無駄にするぞ?」 「…皆の悲しい顔を見たくないんだ…同情もいらない、今まで通り…な、なかよく…ぅ、うわ…」 彼方は泣いていた、本当は、凄く寂しかった。誰かに聞いてほしかった、もうバラバラなこと、死にたくなるくらいショックなこと。 咲弥は俺を見つめるだけで、なにも言わない。 今は何も言われたくなかったから、よかった。 こういう時は空気を読めるから、楽だ。 「お前の選択肢はわかったよ、でも無理はするな、気を使って欲しくないならそんな止めろ、話は俺だけ聞くよ、だからあんまり落ち込むな」 「うん…うんっ!本当は怖いんだ死ぬのが、忘れられたらどうしようって」 「お前馬鹿か?俺達が忘れるわけないだろーが、お前は死なない、俺達が絶対死なせない」 「咲弥…」 「とりあえず抗がん剤で怠いだろ?遠慮しないで横になれ、俺は何も言わないけど、いつか言っておけばよかったって日が来るぜ」 「ごめんな、時間貰っちゃって…」 「いいよ、後悔しないように生きろよ、何でも協力するからな」 「ありがとう、ありがとう…独りで怖かったんだ…ずっと誰かに話したかったんだ」 「俺はいつでもいいけどよ、…皆に言った方がいいと思うぜ」 「そしたら皆に心配させるし迷惑かけるだろ?」 「何が今さら、そんな仲じゃないだろ、俺達お前の味方なんだから」 彼方は泣いた、切なくて、嬉しくて。
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