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せめて好きな人だけでも見せてほしい。きっと笑顔が似合う、素敵な人なんだろう。でも信也君は言う。
「これで俺の不細工な顔見れなくてよかったなぁお前は」と。
例えば目が見えたとしても、不細工なんた絶対思わないだろう。むしろ綺麗な顔立ちをしてると思う。
第一本当の不細工は自分からは言わない。
信也君の顔をいつも寝る前に思い描いていた。鼻は高いのかな、目はきっとぱっちりしてて…それから…。
そうやって眠るのが楽しくて仕方なかった。
だから目が見えないのも少し楽しかった。これで顔が見えたら、もう最高なのに。
椿お兄ちゃんには足がない。もう自分の足で地面を踏むことが出来ない。走ることも出来ない、簡単にトイレに行けない。いつも毛布を被せているけど、膨らみがないからすぐわかる。
お兄ちゃんはどれだけ辛かったんだろう、二度と歩けない自分を。
でもお兄ちゃんは庇ってくれた、目も足も無くしそうになった僕を。自らすすんで。
僕なら怖くて言えない、自分から身体を傷つけたくない。でもお兄ちゃんはやってくれた。
本当なら目も見えない足もない僕になっていたはずなのに。
そんなお兄ちゃんが大好きだった、お互い自殺しようとしたのを考え直して二人で抱き合って泣いて眠った。そんな日が続いていた。
ここに来て本当に幸せ。お兄ちゃんとは部屋が別れてしまったけれど、それはこの施設の計らいだった。二人で同じ部屋にいたら、他人と干渉しあわないだろうと。
僕は後々離れて正解だと思った。お兄ちゃんは何度も何度も必ず会いに来るからと泣いていた。
そんなの、いつでも会えるし、第一他の人とも仲良くなれる機会が欲しかったから。
二人きりでいるのはとても楽しい。嬉しい。
お兄ちゃんが勉強会に出るようになってからは会える日数が減ったけど、悪魔君が定期的にお兄ちゃんのことを教えてくれたので寂しくなかった。
そして、信也君もいる。
好きでどうしようもなくて、でも男同士を嫌う信也君には何も言えなかった、僕の気持ちがばれてしまったら、信也君は多分距離を置いてしまうと思ったから。
だから下手なことは言えない。今こうやって、声を聞けるだけで幸せ。
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