雫の涙

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「俺がお前の目になってやるよ!」 「…え?」 それはある日の夜突然だった。 「どういうこと…?」 「今日は満月なんだよ、だから雫と二人で行こうと思ってさ、前は無知誘ったんだー」 見に行くって言っても…僕見れない。 「でも僕…」 「だーから代わりをしてやるんだって、お前前に無知と行ったの話したとき羨ましいって言ってただろ?」 確かに言った、それはそれは羨ましく。 「俺といれば見える見えない関係ないから!さ、行こう」 部屋の中では無知も秋も眠っていた。起こさないように慎重にベッドから降りて、信也の後を追った。 チンッと音がした。エレベーターはどうやら屋上に着いたらしい。 手を引かれ、急に信也は立ち止まった。 「やっぱ人多いなー、夏の大三角形でも見たいのかね、あ、今ちょうど雫の真上に月があるぜ」 そんなこと言われても…戸惑いながら真上を見上げる。 暗い、目を閉じているだけでも暗いのに、それを写す物自体がない、目の前は真っ黒だ。 「やっぱり無理だよ信也君…僕」 「この季節の風は涼しくていいよなー」 言葉を遮られた。 「ほら、感じないか?風が当たる音、俺が隣にいる音がさ」 そう言われると、目が見えない分、聴覚が澄まされる。 このまま信也君の心臓の音すらも聞こえてくる気がして…不思議な感じ。 「ちなみに俺も今一緒に目を瞑ってる」 「え?」 「失明ってこんなに怖いものなんだな、お前はいつもこうやって生活してるんだよな、すげぇよ」 「そんなことないよ…もう慣れちゃったから」 「そんな悲しい声で言うなよ、俺も悲しくなる」 「…」 しばらく沈黙が続いた。 「お前は見えないだろうけどよ、月って凄く明るくて綺麗で、いつも俺達を照らしてるんだぜ、だから俺は満月の日は必ずここに来る」 癒しみたいなもんかな?と笑った。 「なんか、見えそうな気がする…」 何故か照らされてるように熱く、静かに時間が過ぎていくような…。 目の前は相変わらず真っ黒なのに。 「今はちょうど雲に隠れたな、お、また出てきた、金色みたいだぞ」 信也君に言われると、本当にそんな気がしてくる。 「この間な、椿さんがお前のことで泣いてたんだ、自分はいい兄なのかって」 「え?」 「勿論そうだって伝えたさ、二人きりの兄弟なんだからって」 「…そうなんだ…」 お兄ちゃんもずっと悩んでたんだ、僕ばかりだと思ってた。 「だから仲良くやれよ、な?」 僕は静かに頷いた。
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