雫の涙

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「そろそろ帰るか?」 …本当はずっと一緒に見ていたい、信也君を独占したい。 でもそんなこと言う勇気ないから、僕は黙って頷いた。 すると信也君は僕の手をとり、 「危ないからこのまま行くぞ」 とゆっくり歩いてくれた。 信也君と手を繋いでる…それだけで真っ赤になるほど嬉しい。 「ん?お前頬赤いけど大丈夫か?」 「う、うん!大丈夫、ごめんねありがとう」 「ならいいけど」 信也君が笑った気がした。 部屋に帰ると、信也君はベッドにあがりすぐに寝てしまった。 僕はといえば眠れない。さっきの手の温度が忘れられない。 思い出して喜んでいると、部屋のドアが開いた。 この時間にこの足音は悪魔君だ。 「…なんだ、まだ寝てなかったのか」 「あ、信也君と月を見てたんだ」 「こいつ本当に月が好きだな、満月の度屋上に行ってるぞ」 「そうなんだ、僕は初めて誘われたから」 「綺麗に見えたか?」 「実際は見えないけど、見える気がしたよ」 「そうか、よかったな」 「そういえばお兄ちゃんは最近どう?」 さっきの信也君の言葉を思い出す。 「椿な、最近会ってないからわかんねぇな」 本当はもう二度と絡まないでくれと言ってしまったので、近況は知らない。 「そうかぁ、ごめんね悪魔君、でもそういえば最近帰り遅いけど、何かあったの?」 「特に何もない、ただここに帰ってくるのが嫌なだけだ」 「嫌なの?何で?」 「言ってもわかんねーよ、俺は寝る、雫も早く寝ろ」 答えを教えてくれない悪魔に少し疑問が生まれたけど、言いたくないなら仕方ない。 言われた通りにベッドにもぐり、いつの間にか眠っていた。 「ここを出るのももうすぐか」 ずっと前から練ってきた作戦だ。抜け穴も知ってる、勉強会でも一般常識は習った。 あとはアルバイトで貯めた少しのお金と、多少の服。大荷物になりそうだ。少し選別しないとな。 ただ選別するにはこの部屋に一人の時しか出来ない。大きな鞄も必要だ。 抜けられたらすぐに職場を探して…住むところも決めて…大変なことが山積みだ。 でも負けない、もうさよならもしてある。 「頑張ろう」 頭の中でシュミレーションしながら眠りについた。
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