第1章

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 膨れっ面で自分の恋人に非難する黒髪少女、姫川桃子。  彼女はスマホを取り返すや否や、間を置くことなくスマホの画面をホーム画面に切り替えた。  が、その待受は二人で撮ったプリクラだった。しかもまさかのキスショット。彼女は思わずスマホを脇に置かれたポーチの奥底に押し込んでやる。  それから隣をチラリと覗き、「ミクに見られたんじゃないかな」とハラハラしながら頬を赤らめる。心臓が耳元にあるんじゃないかと錯覚するくらい鼓動が激しく感じられた。 「ふーん、ま、いいや。ハンネさえ出さなければ」  タッチパネル式のリモコンで、次に歌う曲を検索している金髪女子。  彼女の本名は栗山未来。未来と書いてミクと読ませるのだけれど、動画投稿サイトの『歌ってみた』で使われるハンドルネームは、未来と書いてミライと読ませていた。加えてその時の苗字は錦山。  要するに、『歌い手』としての彼女は栗山ミクではなく、錦山ミライとして。更に彼女は、インターネットの世界では女としてではなく、女半分男半分として周囲には認識されていた。  男の声と女の声を自由に使い分けることができる。それが彼女の最も得意とする技術だったからだ。
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