第1章

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 そういう理由で、巷では『両声類(※男女両方の声が出せる人のこと)』などとも呼ばれている栗山未来だが、彼女にはもう一つの顔があった。  同性愛者としての彼女。平たく言えば、同性である女の子が好きな女の子。そんな彼女の裏の顔は、栗山ミクでも錦山ミライでもなく、『モンブラン』というもう一人の彼女だった。  モンブランとしての彼女はツイッターにしか現れることはなく、それが彼女の本来の姿でもあった。  そして姫川桃子は、そんな彼女に惹かれたのだった。 「次、これ歌わん? デュエットで」と小憎らしい笑みを浮かべながら、栗山は姫川にマイクを差し出した。 「えっ!?」  姫川は驚いて、思わず自分に向けられたマイクを凝視した。  それから液晶テレビの画面を目に映した。そこに映し出された曲名を見て、姫川は思わずハッと息を飲む。 「この歌……」  姫川はその曲をよく知っていた。  栗山と付き合うことになって、それから初めて聴いた彼女の歌った曲だから。 「うん、ウチのオハコ。一緒に歌お?」  ピアノの独奏から始まるイントロは言葉では言い表せないくらいに幻想的で、その後に続くバイオリンとチェロを混ぜた三重奏は、聴く者全てを夢の世界に連れて行く。
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