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「………………」
「………………」
曲はまだ続いていた。
最後のサビとアウトロが残されている。
だが、二人の間には長い沈黙が流れていた。
栗山は照れ臭そうにそっぽを向きながら顔を赤らめて。姫川に至っては耳まで真っ赤に染めあげて、何が起こったのか分からないといった様子でその場にしゃがみ込んでいた。
「し、した……した……」
「………………」
「舌入れるなんて聞いてないよ!」
黙りこくる栗山を見上げ、大声で叫んだ姫川桃子。
付けっ放しのマイクはその音を拾い、彼女の声を閉じられた空間に反響させた。
「だって、可愛いんだもん」と姫川をチラ見する栗山未来。「イヤだった?」
いじらしく尋ねる栗山に「イヤじゃないけど」と口をもごつかせながら姫川は視線を逸らす。
そうやっていじける姫川を余所に、栗山は何かを思い出したように「あ」と声を漏らしマイクを置いた。
そして、椅子に置きっぱなしの自分の鞄から一枚のCDケースを取り出すと、座り込む姫川に手を差し伸べて「立って」と一言声を掛けた。
「ミク?」その手を取り腰を上げる姫川桃子。
「モモ」そんな姫川に優しい微笑みを向ける栗山未来。
それから姫川の空いた左手の甲に手を添えて、その手に一枚のCDケースを手渡した。
「お誕生日おめでとう」
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