願わくば、時間よ止まれ

2/8
前へ
/67ページ
次へ
どうしてこうなったんだろう──。 一人の少年はパイプ椅子に座って思った。 そして、四方八方から同じ制服を着た生徒の視線が少年に集まっていた。 「おいっ聞こえないのか。早く来い。野村鈴音」 低い声がマイクを通して壇上から振り落とす。 壇上にはマイクを持った声の主、生徒会長。かなりの美形である──左右には似た種類の美形(種類を付けようとも美形には変わりないが)が二人ずつ立っている。 先程まで、キャーキャーと奇声を上げ、オーオーと轟音を上げていたにも関わらず、嘘だったように静寂へと変わり果てる体育館。 一番後ろの出入り口に最も近い一番端に座る少年──野村鈴音は仕方ないと溜息を吐きながらパイプ椅子から立ち上がった。 体育館中の驚愕と驚嘆の視線を感じ、逃げ出したい気持ちを押し殺して壇上へ上がる。 「今日から桜川学園高等部の副会長を努めてもらう、野村鈴音だ──ほら一言挨拶しとけ」 生徒会長の横に着いた鈴音は、生徒会長に渡されたマイクを受け取った。 まじで、帰りたい。走って逃げたい。現実逃避がしたい。 「今日から……生徒会副会長を努めさせていただきます。野村鈴音です……宜しくお願いします」 マイクを離し一礼する。 瞬間に奇声と雄叫びが体育館に復活して、鈴音の鼓膜を蹂躙する。 耳が痛い。帰りたい……どうしてこうなったんだろう。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

182人が本棚に入れています
本棚に追加