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そういうわけで、郷里を離れてはや数年。
今、左之助は新八と。
新八は左之助と生きている。
―――生きているっていうこの表現。
生活が楽ではない証拠。
「浪人つってもホント金がねぇな。
また日雇いの人足仕事でもするかぁ?」
新八が言った。
「俺は断る。
そんなものは性に合わん。つーか俺の美意識が許さんのよ」
そう言って、左之助は自らの頬を撫でる。
「何言ってやがる。
その筋肉は飾りか?
肉体労働に使わなくて何に使うんだ」
「だまれ!
俺はお前ほどムッキムキじゃないわッ!!」
「だが俺は、お前よりもおつむの出来がいい」
新八もなかなかに男前なのだが、左之助の方がちょっぴり男前らしい。
―――はぁ
無駄な口論に、どちらからともなく大きなため息をついた。
そして二人揃って向かった先は、口入屋。
そう毎度毎度、貧乏道場の世話になるのも気が引けるのだ。
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