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馴染みの宿に着くと、宿の女がすぐに声をかけて来た。
「あら、左之助さんお一人?新さんは?」
「…知らねー」
左之助がぶっきらぼうに答えるので…
「さては新さん、いい人のところかしら。
それで左之助さんったら拗ねてるのね」
「はぁ?新八は俺らの宿代払うために働いてんだよ!」
「あら、そうだったの。
それにしても誰かさんと違って新さんは真面目でいい男よねぇ。
宿代は待ってあげるから、私にかんざしの一つも買ってくれないかしら。
ね、そう思わない?」
「…知るかッ!」
「あ、待って!冗談よ!
…もう。
夕飯までには帰って来てね!片付かないから!」
宿の女は、踵を返す左之助の背中に向かって叫んだ。
しかしからかわれたのが癇に障った左之助は、女の声を無視して再びぶらぶらと歩き始めた。
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