第1章

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「お待ちしておりました。こちらです」 3人の来客の前に立って細い廊下を歩き出す。 腰回りや足に視線を感じるが、そんなの日常茶飯事だ。 「あなたが秋川さんでしたか。 電話の声が落ち着いていらっしゃったので お若い方だとは思いませんでした」 背後から話しかけてきた来客に 「そんなにお若くもないんです」と笑みをふくんだ声で応じる。 27歳という年令が若いかどうかは微妙だ、と 秋川瞳は思った。 応接室Bの扉を開け、3名をとおすと 「高山をよんでまいりますので、しばらくお待ちください」 丁寧に頭を下げて部屋を出た。 すぐうらにある業者用のエレベータを使うことにした。 本当は業者以外は使用禁止なんだけど。 自販機の補充は月曜日にだし、運送業者が集荷にくる時間も もう少しあとだし。 心の中で言い訳しながらエレベータを待っていると 「あれがうわさの姫か」 瞳に「お若い方」と言ったのと同じ声が聞こえた。 静かにエレベーターのドアが開くが、瞳は乗らなかった。 じっと会話に耳をすませた。 「高山部長がうちの秘書は部下たちに姫なんてよばれてるって 自慢するからどれほどの美人かと思ったけど、わりと普通だったな」 「そうですか?ぼくは十分きれいな人だと思いましたけど」 「姫ってほどじゃないだろ」 「どっちかっつーとキャバクラとかでもてそうだよな」 「それ、お前、胸しか見てないだろ」 瞳は奥歯をかんで、もう一度エレベーターのボタンを押す。 今度はエレベータに乗って部長がいる6階を目指した。 フロアに行くと、高山部長がちょうど席を立つところだった。 「応接室Bにお通ししました」 「ありがとう」 部長より先にエレベーターに行き、ボタンを押す。 ドアが開き部長が乗り込むと「閉」ボタンを押す。 来客フロアの2階で降り、部長はそのまま応接室へ。 瞳はお茶の用意のため給湯室へ入った。 電気をつける。 「待ちくたびれましたよ」 ドアの死角になったところから人影があらわれて 瞳は心臓がとまるほど驚いた。 「ビックリするじゃない」 先月同じ部署に配属になった新人の小暮夏生だった。 パタンと音をたててドアが閉じ、電気が消された。 窓がない給湯室は真っ暗になった。
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