109人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「町田が死んだのは、溺死。自殺かもしれないし、事故かもしれない。それは町田にしかわからない。ただ町田はあの日の夜、海外にいた僕に電話をくれた。僕は彼の思いを拒否した。でもそれが原因なんだと僕は思わない。帰国した時に見た手紙の消印が一週間前だったからね」
「消印?」
世理ちゃんの瞳が揺れる。
やっぱり彼女の所にも手紙が届いていたと確信する。
「そう。死ぬ一週間前の消印。ということは町田はもうその時にはそういうつもりだったんだよ」
「そんな……。私が睦月に死の色って何色だろうって聞いたのは、三日前……」
「君に死の色を教えると言うのは、町田の置き土産だろう。それと置き呪い?そんな言葉はないかな?」
「睦月の手紙には、愛を思い知れって。それはきっと死の色を教えた自分の愛を思い知れって……」
世理ちゃんは隣の京壱を見上げる。
その瞳からは涙が滔々と零れていた。
拭う京壱の手は壊れ物に触れるかのように優しかった。
「町田はせめて愛した君の中に居座り続けたかったんだろうね。そして君がこれから出会うかもしれない男性に対する敵対心。君の描く死という色は自分が示したという傲慢。君のまっさらな感性に入り込んで壊したくなった町田の嫉妬」
「止めろ、揚羽。もういい」
「思い出は思い出のまま綺麗に取って置きたいのは、僕も同じだ。でもさ、飲み込まれちゃ駄目だ。前に進まないと。同じ町田の呪縛を受けた二人が出逢ったんだ。僕は今がその時だと思うね」
「榊さん……」
「ん?」
「睦月は私を愛していたんでしょうか。私の才能を愛していたんじゃないでしょうか」
「大学の壁画」
「え?」
「僕と町田が通っていた大学の壁画を観に行けばいいよ。アイツはあれに三年費やした」
「三年……」
「人生の七分の一を費やしても描きたかったものがそこにはあるよ」
最初のコメントを投稿しよう!