第1章

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しかし皇太子さんが大慌てで、逃げ出したのを見てね。 ああ、こりゃあ警官が悪いんだなと、思ったわけです。  勇敢にもギリシャの王子さんが、竹杖で警官を殴った。 その隙を見て、アタクシも警官の足を引っ張って倒したんで。  北賀市市太郎(きたがいち・いちたろう)  確かに驚きましたが、皇太子様は手負いながら路地へ逃げ 私はギリシャ王子様の車を担当していましたので、すぐに 後を追いますと、向畑さんが引き倒した所で、落ちていた 警官のサーベルを取り上げ、犯人の首を少し傷つけました。  ニコライ・アレクサンドロヴィチ・ロマノフ(長い)  ゲオルギウス殿の助けもあって、素早く脱出できた。 色々あったが、ロシア皇太子は帰国して戴冠式に臨んだ。  何はともあれ晴れてロシア皇帝ニコライ二世となれた。 これもまた華々しく、民衆から祝福を受けた。 日本はロシアの攻撃を恐れたので、充分に威厳を発揮できた。 まだ日本に充分な軍備が揃っていなかったからだ。 ****************  さて、この華々しい三人のその後。  まずは拾ったサーベルで斬った北賀市氏は、向畑と共に 日本政府から終身年金を貰っていたが、日露戦争開戦からは 敵国の皇帝を救ったなど、褒美は出せないとして貰えなくなる。 しかし加賀江沼郡の出身だった、北賀市氏は群議員で地道に 頑張って畑を買うなどして、コツコツ静かに暮らしました。  次に最初に犯人を引き倒した向畑は、典型的な使い放題。 呑む・打つ・買うで、身を持ちくずして一文無しに。 それでも、どうにかこうにか、生きながらえたものの 3人もの少女に婦女暴行を行って逮捕、この時71歳。 それから3年後には、この世を去ったという。  最後にロシア皇帝ニコライ二世は、本当に最後の皇帝に。 治世は失敗続きで、民衆から受けるのは不満だけになった。 日露戦争にも負けて、ロシア革命によって皇帝は廃止された。  最後は妻子と共に処刑された。  余談になるが、犯行に及んだ津田三蔵は死刑にはならずに 無期徒刑という判決を受けて、勲章も警察職も全て失ったが 命だけは、釧路集治監で肺炎によって静かに獄死した。  お奉行様ならば、何を損させて納めただろうか。 これにて一件落着とは、斯くも難しくあるもので。 酒にも酔わずに、勲章を下げて歩かれ……。  いえ、よしましょう。
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