0人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし皇太子さんが大慌てで、逃げ出したのを見てね。
ああ、こりゃあ警官が悪いんだなと、思ったわけです。
勇敢にもギリシャの王子さんが、竹杖で警官を殴った。
その隙を見て、アタクシも警官の足を引っ張って倒したんで。
北賀市市太郎(きたがいち・いちたろう)
確かに驚きましたが、皇太子様は手負いながら路地へ逃げ
私はギリシャ王子様の車を担当していましたので、すぐに
後を追いますと、向畑さんが引き倒した所で、落ちていた
警官のサーベルを取り上げ、犯人の首を少し傷つけました。
ニコライ・アレクサンドロヴィチ・ロマノフ(長い)
ゲオルギウス殿の助けもあって、素早く脱出できた。
色々あったが、ロシア皇太子は帰国して戴冠式に臨んだ。
何はともあれ晴れてロシア皇帝ニコライ二世となれた。
これもまた華々しく、民衆から祝福を受けた。
日本はロシアの攻撃を恐れたので、充分に威厳を発揮できた。
まだ日本に充分な軍備が揃っていなかったからだ。
****************
さて、この華々しい三人のその後。
まずは拾ったサーベルで斬った北賀市氏は、向畑と共に
日本政府から終身年金を貰っていたが、日露戦争開戦からは
敵国の皇帝を救ったなど、褒美は出せないとして貰えなくなる。
しかし加賀江沼郡の出身だった、北賀市氏は群議員で地道に
頑張って畑を買うなどして、コツコツ静かに暮らしました。
次に最初に犯人を引き倒した向畑は、典型的な使い放題。
呑む・打つ・買うで、身を持ちくずして一文無しに。
それでも、どうにかこうにか、生きながらえたものの
3人もの少女に婦女暴行を行って逮捕、この時71歳。
それから3年後には、この世を去ったという。
最後にロシア皇帝ニコライ二世は、本当に最後の皇帝に。
治世は失敗続きで、民衆から受けるのは不満だけになった。
日露戦争にも負けて、ロシア革命によって皇帝は廃止された。
最後は妻子と共に処刑された。
余談になるが、犯行に及んだ津田三蔵は死刑にはならずに
無期徒刑という判決を受けて、勲章も警察職も全て失ったが
命だけは、釧路集治監で肺炎によって静かに獄死した。
お奉行様ならば、何を損させて納めただろうか。
これにて一件落着とは、斯くも難しくあるもので。
酒にも酔わずに、勲章を下げて歩かれ……。
いえ、よしましょう。
最初のコメントを投稿しよう!