第1章

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「すいません。終点です、起きてください。」 駅員さんがそう呼び掛けてくる。どうやら考え事をしてたら眠ってしまったようだ。 「すぐ降ります。」 そう言って僕は荷物を持って電車から降りた。 「やばいな、寝過ごしちゃったよ」 4番線のホームから22番線のホームへ歩いた。ここは間違ってもキングクリムゾン!とかは言わない。 22番線ホームで11時出発のお目当ての電車を見つけて、乗車した。 因みに僕は自分が利用する電車の全ての時刻表を暗記している。何せ暇ですから。 「あれ、本山君?」 声がしたほうへ顔を向けると、イヤホンを片耳につけ、向かい側の席に座っている女性がいた。声をかけてきた女性は制服を着ていて、僕と同じ高校生に見える。僕の名前を知っているみたいだから、おそらく同じ学校のクラスメイトか何かなのだろう。 「あ、やっぱり!」 彼女の声が少し明るくなった。 ショートヘアの黒髪を揺らし、彼女は満足そうに頷いた。 「誰ですか?」 「誰だろうねえ?当ててみて」 「日本人」 「それ当たらないほうがすごいから」 「聖徳太子」 「ねえ!?私一応女子なんだけど!?女子に見えない!?」 あ、年齢云々は気にしないんだ。 「ギブアップ」 「…私の名前は福山優奈だよ」 福山優奈、プロフィールは…知らないな。誰だよ。容姿は上の下ぐらいで笑顔がかわいいという印象で、話すことが嫌だとは感じない。いやいや、そこは今問題ではない。 問題なのは、何を話せばいいのか?ということだ。いままで人と会話が弾んだことがなければ、当然人が当たり障りなく参加できる話題提供などもできるわけがなくて、これにどう返せばいいのか全くわからない。 「クラスメイトの名前を1人も知らないぐらいだから、どのクラスかもわからないか。私は本山君と同じ2年3組の生徒だよ。」 助かった。助け船がなかったら僕は思考の海で溺れていたよ。船だけに。 「やっぱり同じクラスなんだ。えっと、福山さんだっけ、こんな時間まで何をしてたの?僕が言うのもあれだけど。」 「塾で自習してたんだ。なんせこの時間まで自習するのが癖になっちゃったもんで、あんまり大変じゃないけどね。」
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