第1章

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 随分と古い話なのだと、祖父から直接に聞いたのは 私がとても幼い頃だったので。素直に信じてしまった。  その当時での、祖父の語った時の”今”はもう 誰も気がついては居ないが、村の外れにある小さな 教会があるだろう?と祖父は訊ねた。  そこは既にボロボロで、町の方に大きな教会が 出来たので、神父様もそちらにいらっしゃる。  私も幼い頃は、嫌々ながら福音書を読んで 折角の日曜日を、礼拝の為に時間を使うのが嫌だった。  つまり私は不敬で冒涜的で、簡単にまとめると 単なる悪ガキだったのだ。但し、村はずれの朽ちた あの教会は好きだった。神聖とかではなく何か慈愛が。  祖父は思い耽ってる私の頃合を見計らって続けた。 お前は友達とよく、あの壊れた教会で遊んでいるね。  怒られると思ったので、何か言い訳を考えたけど 祖父の方が先に話を続けた。  それは威厳のある一つの石碑の話で、それは朽ちた 教会の裏の古い時代の人達の墓地、その真横に建っている。 もちろん教会と同じように、朽ち欠けて文字も読めない。  ただ、動物のような生き物が掘ってある。 それだけは知っていたから、祖父にもそういった。  すると「そうかそうか、お前もマイトを見たのだね。」  祖父はそういって、パイプを燻らせてから私の当然の 質問である「マイト?」に答えるように話を始めた。  お爺ちゃんにも、お前のように子供だった頃はあったさ。 そして同じように教会に行くのも嫌で、お説教なんて 真っ平御免だったわんぱくボウズだ。おまえとよく似ていた。  その頃はまだ、村はずれの教会は古びてはいたが 神父様も居られて、皆が祈りに行ったものだよ。 勉強は嫌いだったが、神父様はお優しかったし裏庭で お墓の側以外なら、自由に遊ばせてくれたし。 お菓子をくださることもあった。あのクッキーは美味かった。  必ず「主に誓って、内緒ですよ。」と冗談を言ってくれた。 でも、普段はとても真面目な方で毎日、修行に励まれていて、 おまえ同様に悪ガキどもにも格好よく、威厳を感じたものだ。  で、その墓地の番人とでもいうのかな。わしらが墓地へ 近づこうとすれば、立ちふさがる黒猫がいたんじゃ。 誰が飼っていたというわけでもなく、いつからか住み着いて もちろん神父様は、黒猫を可愛がっておられた。  それでも神父様は、あの黒猫は自由なのです。皆さんと 同じようにですと仰った。
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