第1章

3/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 ただ、呼び名が無いと不便でな。自然、神父様が 【マイト】と名付けたらしいが、よくは判らないのだ。 気付いたら、村中が【黒猫マイト】【墓守マイト】などと 呼んで慕って可愛がっておったのだ。  マイトという名前は、威力や強い力という意味があった。 その通りマイトは猫達の中でも、一番強くて堂々としていた。  だがのお、ここからがこの話の奇妙な所なのじゃ。  私は少し身構えるようにして続きを期待していた。  マイトは力が強すぎてな、夜な夜な神父様の服を着ては 体を大きく膨らまして、猫達だけでなく虫一匹にも 説教をして、祈りを捧げるように行っていたらしいのだ。  わしは見ちゃいない。子供は夜中に外へは出しては 貰えないからな。だがなぁ、その夜の秘密の黒猫礼拝を 見たような、驚いて逃げてきたので判らないが、神父様では 無かったはずだと、その夜の見回りを担当していた男性が 村の者達に話したのだ。小さな村じゃから噂はパッと広まる。  次の日、神父様は黒猫のマイトにご飯をあげながら 優しく訊ねたと言われている。マイト、マイトや。 お前は本当に夜中に人に化けて、説教をしているのかい。  すると、マイトは酷く申し訳無さそうに謝って 神父様に全て本当だと話したらしい。その力は黒猫が使える 魔法の力によるので、神様に背くような行いでしたと 深く謝ったらしいのだ。  神父様は慌てて、それはいけない。既に悪魔の猫だという 噂にまでなってしまった。マイトやマイト。可哀想だけれど お前はここから逃げて、暮らせる場所は無いのかい。  マイトは、私も他の猫達も森の奥に隠れ家を持っています。 そこに蓄えておいたエサもあるので、森を抜けて山を越えて もっと行けば、もう仔猫でも安心です。  でも私は神父様が心配です。もし主が神父様に試練を お与えになる事があった時の為に、神父様が手作りなさる クッキーを、ポケットに1つ入れておいて下さい。  ああ、約束しよう。私はいつも誰かとクッキーを分かちたい。  神父様は薄っすら涙を浮かべ、ありったけの食べ物を与えた。 せめてものお弁当くらいしか、マイトには持て無かったけれど。 何度もお礼を言って、遠くへ去って行くマイトを見送ったとか。  それからの神父様は、ご自分の信心が弱かった為にマイトに 黒猫の魔法を使わせてしまったと嘆き、助けられなかった事を ずっと悔やんでおられた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!