第1章

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この聖歌を、賛美歌を歌ってくれと。頼んだ。不恰好な十字架に 皆が祈って、主よみもとに……。歌声で雨を蹴散らしてやる。  だが今までにない程の、大嵐になってしまった。 この葬儀は呪われているんだ。多くの人からお金を奪った村長に 神様はお怒りなんだ。誰もがそういい始めた。 わしも棟梁も、走り抜ければ平気だと。説得したが無駄だった。  その時、急に何かを思い出したように、神父様が参列者に 一つ一つ、クッキーを配った。わしも棟梁も、馬車の男も食べた。 素晴らしい美味しさだった。そして、神父様が最後の一つを空へ 掲げられた時だ。確かにわしは聞いた。聞き間違えじゃない。    マイトや。おまえのクッキーだよ、お食べ。アーメン。  大嵐は一瞬でとまった。誰もが信じられなかった。 ただ、神父様だけが嬉しそうに、宙を撫でて何か話しておられた。 「フハハハ!それは弁当にもならないね。」 その会話は、わしも他の誰にも聞こえなかったが。 誰もがそのように、感じたと言っていたよ。わしもだ。 「大嵐を起こしてごめんなさい。でもこれでやっと神父様に ご恩返しができます。私の頼みを覚えていてくれてありがとう。」 『こ、これも主のお恵みによるものですよ。』 「いえ。あなたの御心ですよ!」  直後に神父様にだけ見えていたのかもしれない。  わからない、そういう事はわからないままでいい。  葬儀は無事に厳粛に終える事ができた。 誰もが、クッキーやケーキと、濃い珈琲を飲んで 故人を偲んだ。相当に資産を貯めこんでいたらしい。  だが。  後に遺族の人達から、神父様の祈りのおかげですから 両方の村を繋ぐ山の下に、大きな町を造る為に使って欲しい。 そこに立派な教会を建てよう。そういう事になった。 わしらの村にも協力を頼まれた。 「主に誓って、内緒ですよ。」と言われた。  わしも棟梁も頑張った。誰もが手伝った。神父様まで手伝われた。 それで、あの教会が建っているのだ。 神父様もまた、わしがようやく弟子を持った頃に天に召された。 いま、あの教会に居られるのは、甥の方なのだよ。  じゃあ、元々あった教会はそのまま廃墟になったの? 私はそう聞いたと思う。何か気になったからだろう。  お爺ちゃんは「さあ、どうかのお。」と言った。  あの古い教会はほとんど朽ちてこのまま野に還る。 唯一残るのは、爺ちゃんが掘った十字架の石碑の裏側に
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