きみさえいれば

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「じゃあ俺帰りますね」 女の子をゆっくりと下ろし、にこにこと笑うその子の頭を優しく撫でながら、龍が名残惜しそうな表情を見せた。 「すみません、わがまま聞いてもらって……。本当にありがとうございました。ほら、みちか、お礼言いなさい」 母親であろうその女性がその子の頭に手を置き、お辞儀を促す。 俺は、言われた通りにぺこりと頭を下げるその姿をぼーっと見ていた。 話を聞く限り、この女性はたまたま龍と同じ場所にいて、たまたまこの子どもが肩車をねだったんだと分かった。 別に知り合いでも何でもなくて、本当にたまたま出会っただけ。 だから、気にすることは何もない。 今日出会ったからって、これからまた会いましょうって約束をするわけでもない。 それに、龍だっていつもは公園に行くことなんてないのだ。 今日はたまたま鍵を忘れたからここにいただけ。 だけど、分かっていても胸のモヤモヤが消えてはくれない。 「おじちゃぁーん、また遊ぼーね!」 「こら、おじちゃんじゃないぞ?お兄さんだ」 「ぇー、おじちゃんはおじちゃんだよぉ?」 「みちかったら……。すみません本当に……」 「いいですよ、気にしないでください。ねぇみちかちゃん、こう見えてもお兄さんはまだ二十代なんだよ」 「ふふっ、にじゅーだい?」 俺がいないかのように、さっきからずっとなされている会話。 ぽんぽんと優しく女の子の頭に触れる恋人。 その女の子に向ける龍の優しい表情が、いつも俺に向けられるものとは少し違うような気がして。 こんな顔もするんだ……って。 子ども、好きなんだなって。 俺の胸が、ずきんと痛んだ。
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