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と切り出したものの、これといった名前が思いつかない。
「……椎名(しいな)、でいいかな」
「それ凄い良い名前じゃん!」
「そ、そうか?」
椎名とは姉の名前。彼女は姉に非常に似ていたのだ。髪型も、顔立ちも、身長も、天真爛漫な雰囲気も、何もかも瓜二つ。まるで海崎椎名の生き写しだった。
「あ、でねでね。あなたのお名前はなぁに?」
「海崎御南斗だyp。……漢字分かる?」
「わかんないや」
「ほぅ、家族ねぇ。独り暮らしのお前には丁度良いんじゃないか?」
まさかその家族が本当の意味での人だと捉える人物はまずいない。神夜は何かの比喩表現なのかと勘違いしているらしく、話を上手に合わせてくる。
「いや、かなり手間がかかりそうだぞ」
特にお世話に。
「それで、どんなやつなんだ?」
「猫みたいなやつかなぁ……」
「ほぅ、野良猫に餌あげたら懐かれた感じか」
「まぁ、そんなところだな」
二人で談笑していると、御南斗は食い入るような視線を感じた。そちらへ目を配ると、いつの間にか覗き込むような形の人集りが扉に出来ていた。どうやらイケメン君の声と匂いと気配を嗅ぎ付けた他クラスの女生徒が野次馬として見物に来ているらしい。
しかし所詮は烏合の衆で、人数が増えると陣形を維持できなくなり、業を煮やした一名が教室に侵入してくるのを皮切りに、残りの生徒達が雪崩のようにドッと押し寄せてきた。
あっという間に囲まれ、逃げ道を封鎖される。
「神夜君、実はわたし猫飼ってるの」
「へ、へぇ、そうなんだ」
「(訊いてねぇよ)」
悪態をついたのは御南斗。
「わたしだって猫飼ってるんだよ!」
「何よ! わたしが先に話しかけたんだからシャシャリ出るんじゃないわよ!」
「うるさいわね! あんたの話なんて誰も聞いてないわよ!」
正論だ。そして彼女の話も誰も聞いていないし訊こうともしていない。
「あんたと神夜君はビジュアル的に合わないのよ! 月とすっぽんなのよ! 雲泥の差なのよ! 大人しく遊園地で遊んでた男と寝てなさい!」
「なっ!? 今そのこと言わなくてもっていうか何のことよ!」
「どうせあんたのことだから神夜君も遊び目的なんでしょ!?」
「それはあんたのことでしょうがぁああぁああぁ!」
なにか、耳にしてはいけない部類の話を聞いてしまったようだ。
と、取っ組み合いに発展しそうな二人を退かせて一人の女子が図々しくも前に出てきた。
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