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「さて、あなたもご存知の魔法少女。あれは一体なんだと思う?」
「なんだって、国の獣への対抗手段じゃないの?」
「うん、そうだよ」
より目立たせるためか、彼女は一拍間置く。
「――そのことについてあなたは何も疑問を感じないの?」
傷を負わすことすら困難だった獣との絶望的な戦力差を、どうやってたった数年で埋めたかについてだ。
「そんなこと言われたってな。昔の話だし、授業でもそんなに詳しく習ってないし」
「もう。ならわたしからヒントをあげる。一番最初に獣にダメージを与えたのは誰?」
そんなもの、有史以来ただの一人しか事例がない。
「天使……?」
「そうだよ。魔法少女はね、天使の血を引き継いでるの」
「さてはお前バカだろ」
間髪入れずに御南斗はそう言い放った。
「!?」
彼は呆れていた。魔法少女が天使の子孫だとか、天使と人間で交配でもしたというのか。
「ほんとなんだもん! ほんとのことなんだもん!」
興奮のあまり身を乗り出した彼女に、御南斗は内心驚く。
「だってなぁお前、天使が落ちてきてから十数年も経ってんだぞ。それに天使は死んでんだから、子供なんて作れないだろ」
「え、子作りしなくても天使の遺伝子は受け継げるよ?」
その代表的な例がクローン技術。命を弄る非人道的行為として条例で禁止されてはいるが、その技術力は本物である。有名な成功例は羊のクローンが挙げられる。
「心臓が止まったってすぐに細胞が死ぬわけじゃないし、冷凍保存して細胞の治癒機能を手助けしてあげればいくらでも培養できるよ」
「だとしてな、そもそも天使の細胞を受け継がせる必要ないだろ。わざわざ天使モドキを造るならサイボーグとかでいいじゃないか」
「分かってないなぁ」
チッチッチッと、彼女は自慢気に人差し指を左右へ動かす。
「そんなの意味ないよ。次元が違うもん」
「次元?」
「そう、次元」
二次元(絵)は三次元(現実)には干渉できないが、人は筆を執って絵画に干渉できる。それと同じだ。下の次元では上の次元に手出し出来ないが、上の次元は一方的に下の次元に介入できる。
だからこそ魔法少女は造られた。獣と同じ次元に立つために。
「でもね、人の科学力で人一人に天使の力を制御させるのは力不足だったの」
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