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鬱蒼とした森に左右を囲まれた道を、駆ける。
手には槍。全身を覆う甲冑。
―もっと、速く。
馬の腹に蹴りを入れる。わずかに遅れて体がぐん、と後ろに引っ張られ自分がより疾くなったことを感じる。駆けるたび、全身に付けた金属のプレートが擦れてカチャカチャと乾いた音を立てる。馬の口から白い息が漏れる。その口も頭も、飾りのついたプレートで覆われていた。
俺たちは中世の騎士(シュバリエ)だった。俺の走る後ろにも多くの騎士が続いている。数は30ばかり、俺はその先頭だ。速度には自信がある。
足元から蹄が土を蹴る音がする。ときどき木の枝を踏みつぶす音が混じる。馬の息遣いが聞こえ、起きだしたばかりの鳥の囀りが聞こえる。
ちら、と後ろを見ると仲間の上げる土煙が見えた。あいつらは今、俺の上げた土煙に巻かれ、俺の足音を聞きながら走っているはず。そこは土埃と喧噪の渦だ。
再び誰も居ない前方を見やる。森特有の湿った臭い。朝の冷えた空気が顔に心地よい。この景色は先頭を駆けるものだけの特権だった。
そうやって俺たちは、朝の静寂から醒めようとしている森を無理やりに切り裂いていく。
やがて森は開け、薄霧の中に朝日を浴びてオレンジ色に染まった丘が見えてくる。
先発隊である投石器隊と歩兵隊が見えてきた。投石器隊は既に積荷を展開し組み立てを進めている。そちらへ向かい、緩やかに馬の速度を落としていく。
投石器隊の横を回り込み、その先に陣取る。目を向けた先、丘の頂上付近には石煉瓦造りの城が見えた。あれが今回のターゲットだ。
朝陽を浴び、オレンジ色に染まって浮かび上がる城。炊事中だったのだろうか、城からは何本もの煙が立ち上っている。平和な世なら絵の一枚でも描きたくなるような光景。
「呑気なものだ」
俺はつぶやく。相手もこちらがこれほど早く攻めて来るとは思っていなかったのだろう。足の遅い投石機隊は夜のうちに進軍し、ここに辿り着かせておいたのだ。
投石器隊の隊長にご苦労、と軽く手をあげる。相手もこちらに軽く手を上げるが、すぐさまそれどころではないといった風に作業に戻っていった。
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